[山行記録・実川 硫黄沢]


山行記録           実川 硫黄沢

日時:2001年7月1日(日)
メンバー:CLA香,T村(文),Y川,A山,N脇,T田(記録)
目的:沢登りおよび湿原探し
コースタイム:入渓点7:35ーF1 8:15〜2股9:05〜大滝9:50〜昼飯11:45〜12:35〜熊狗鼠田代13:40〜裏燧林道14:06

記録(T田)
前日に我々を悩ませた雨はいつしか止み,雲の向こうに青い空が見え隠れしている.
天気予報の後押しも受けて普段の2倍に水かさを増した硫黄沢へと入った.流れは速く,
水は冷たい.朝の寝ぼけ眼も一瞬で覚めた.そんな沢の様子をみてY川さんが
「今日は沢登りじゃなくて沢歩きになってしまいそうだね」と言う.とても納得する.
ジャブジャブと流れを横切りながら河原を歩いていくと,やがてF1が現われた.
滝ははじけるようにして水を撒き散らしている.その水しぶきを避けて滝の右側を越えた.
ザイルで確保してもらってはいるが緊張していたらしく,動
悸の早まるのが聞こえた.滝を越えた後,ちょっと先行しすぎてみなさまに,
心配を掛けてしまったが,おかげで真っ赤なマスタケを見つけることができた.
これでトントンになっただろうか?
次の滝も右側から越えた.ここで後方のビレーを私がまかされた.この日の中でもっとも緊張した場面である.
確保しているだけなので別に危険であることはまったくないのだが,自分の知識の不確かさが不安を喚起するのだ.
結局,自分で最後までやったのだが,途中ひよって「最後,
T村さんお願いできますか」などと頼んでみたりもしてしまった.このとき実戦経験が伴わないと知識は
まったくいきたものになってくれないのだと強く感じた.訓練でもだめだ.こうした実際の緊張した場面が
必要なのではないかと思う.それから沢を抜けたあとに感じたことだが,今回の山行は,
あまり刹那な思いをせずに終えることができた.しかし,これは実に当然のことだ.
なにせリーダーがA香さんである.不安に感じそうな場所ではかならず助けなり励ましなりが入る.
いちいちためらっている場合ではない.このような恵まれた環境にいるのだから,できる限り技術を学び,
試し,また盗んでおかなくてはいけない,と強く思った.
 二股を過ぎるとサワグルミやトチノキが真っ直ぐな幹を走らせている,うすぐらい林に入る
.脇からおちる沢という沢は,小さなものも大きなものもみな滝と化して白波を立ててと流れている.
この白い流れにコケの蛍光がかった深い緑が色をそえ,うすぐらい林床をしっとりとした静かな空間へと変えていた.
林の切れ目にあるがけには一面にオオイタドリが生え,ヒラヒラした大きな葉をずらりと並べている.
光を吸収して黄緑色に透けた葉が揺れている様子はなんとも優しい.
余談になるが,表日本にくらべて裏日本の植物は葉の広くて薄い種が多い.このオオイタドリもそのよい例である.
表日本に生えているイタドリに比べると,このオオイタドリの方が圧倒的に葉が広くて薄く,また背も巨大である.
今回,林道沿いに生えていたオオイタドリとイタドリの葉をとって調べてみた.
すると,オオイタドリの葉はイタドリのそれに比べて1.5倍から2倍ほども薄かった.葉の断面は,
表面にある透明な表皮細胞と,その間に数層に積まれた緑色の葉肉細胞から構成されている.
「葉が薄い」というのは,「葉肉細胞の層の数が少ない」ことのあらわれである.
葉肉細胞は上から透過してくる光を吸収して二酸化炭素から炭水化物を合成する,
光合成を行う機能を持っている.炭水化物のできる量は光が強いほど多いので,
表側の表面近くにある細胞ほど強い光を吸収して多くの炭水化物を作り出す.
しかし表側の表面から遠ざかった位置にある細胞は,上にある細胞が吸収したあとにこぼれたわずかな光しか
得ることができないために炭水化物の稼ぎが少なくなってしまう.しかし,稼ぎが違っていても,
葉の中にあるどの細胞も維持のために同じエネルギーを必要とする.
だから葉肉細胞の層を増やして葉を厚くすると稼ぎの少ない無駄な細胞が増えることになり,
逆に薄い葉ではそうした無駄な細胞が少なく効率的に稼ぐことができる.
こうした葉の薄さの違いは成長速度の違いに如実に現われる.
文献値を信用すればオオイタドリとイタドリとの葉の薄さの差は,
なんと2倍ちかい成長速度の差を作り出していることになる.
成長速度とは昇給率のことだと考えればよい.
はじめは小さな差でも最後には薄い葉を持つ植物が圧倒的な大きさを誇れるようになるのだ.
裏日本や北海道で山を歩いていると巨大なフキや巨大なシシウドに遭遇するが,
かれらの大きさの秘密もオオイタドリと同じでやはり広くて薄い葉にあるのだろう.
されはさておき,テレテレ歩いているとやがて大滝に出る.
樋のようにへこんだ滝口から勢いよく水が飛び出していた.
迷わずまく.小さく巻いてナメ滝の前におりると今回の核心である7mの滝にでた.
これは右側の壁を越えたが,最後の泥かべで滑った.おもわずヒヤッとする.
その先のゴルジュを越えるとお昼御飯となった.A香さん特製のキムチラーメンと蕎麦掻をご馳走になる.
またどこからともなくビールとワインがでてくる.焚き火はお預けだったが,
楽しい昼食となった.一息つくと,その後は長い河原歩きが続く.時に笹を掻き分け,
時に流れに入り,河原を広く使って進む.途中,魚影を何度も見かけた.興奮して「魚がいますよ!」と叫ぶと,
T村さんがニコニコしながら「逃げた魚はこんなにおおきかったかい」,と両手を広げておっしゃった.
すだれ状の滝がかかる沢を右に分けてしばらくで3mの魚止めの滝にでた.
流れに水際を深く削られた赤い溶岩の岩壁が真っ青な滝壷を暗く覆うようにして取り囲んでいる.
その淵の上をカエデの枝が淵の入り口まで,ずっと伸び,あたりをますます暗くして妖しい雰囲気を作っていた.
これは一見の価値があると思った.この滝の左側を巻くとやがて二股に出る.
湿原マークが本流の東側にあったがあえなく見逃して通り過ぎ,
今後に宿題ができた.近々,リベンジの予定である.
長池との流れを分けてしばらく行った先で笹をこいで湿原にでた.
ここは,乾燥の度合いが強く栄養に富んでいるためか,これまで見た湿原より棲んでいる植物の背が高い.
黄緑色の葉を高々と掲げたゼンマイやまだまだつぼみの小さなヒオウギアヤメが埋め尽くし,
湿原のへりにはきれいな朱色のレンゲツツジが霧にけむっている.一方,
湿原の中央は鹿のヌタバになっているらしくこげ茶の泥が露出していた.
辺りには獣の糞が散らばっている.この中に熊の糞まであったためにこの湿原は「クマクソ田代」という
名前を冠することとなったのだが,そんな様子をみて「土が豊かになるととたんに生活臭がする」とはA山さん.
なんだか含蓄のある言葉だ.湿原の風景をたんのうすると再び沢に戻って林道へと向かい,
A香さんと握手してシマル.ほっとひと息.沢を抜けてしまうと,あっけなく終わった気がしてしまうが,
いやいや,全身を使って奮戦した山行だったようだ.その証拠に沼山峠からのバスに乗ると
我々のキタナイ(!)格好は,いやがられるのを通り越して,
周囲の好奇の的として好意的に(?)迎えられたくらいなのだから.
 

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