34.秘湯の奥に佇む手白山    1849.2m


期間:2002.5.12   天候:晴れ  単独行  地図:川俣温泉
コースタイム:女夫淵5:50−八丁ノ湯6:50―手白沢温泉7:30−7:40−1750m尾根8:40-8:45−手白山頂9:20-9:40−1750m尾根10:15―手白沢温泉11:00-11:15−女夫淵13:20


山行記録:昨日は日光の大真名子山へ登ったが、予想以上の残雪があって小真名子山への縦走路である鷹ノ巣へ下がる道が判らなくなって、縦走を断念した。昨夜は早朝の出発を考え、女夫淵駐車場での車中泊をしたが、駐車場はほぼ満車状態であった。星空の美しさは格別で、久し振りに星座を指呼して、一人満悦の境地であった。
手白沢温泉を包み込む様にして聳える手白山は、麓からはおよそその姿を確認出来ない。
5時に目が覚めた。登り5時間、下り3時間半の計8時間半を予想し、最悪の場合は下山12時をタイムリミットと考えていたので、早い出発は何よりも、心の余裕に繋がるものと思っていた。
5時50分歩き始めた。鬼怒川に沿った、八丁ノ湯から加仁湯への道は、鬼怒沼等への登山で過去2回、手白沢温泉へはさらにその奥にある湯沢噴泉塔へのハイキングで1回歩いていたが、この時期の登山は初めての体験である。
かつて歩いた沢沿いの道は嵐によって荒れ果て、高巻きの道に変わったが、今日歩いて行くと、その道も土石に流され、新たに沢沿いに道が整備され、鉄橋も掛けられていた。1時間後、八丁ノ湯に到着した。ログハウスが幾棟も新築され、宿泊客満室の模様であった。さらに10分後到着した加仁湯は、豪華なホテルが新築され、もはや秘境、秘湯とはかけ離れた状態に変化していた。ここも満室の模様で、華やいだ笑い声が鬼怒川の清流にこだましていた。
ここより手白沢温泉へと左折し、階段を登って行く。北斜面であっても、残雪は既にわずかになり、手白山の藪の登りがどんなものか、不安が頭をよぎってきた。しかし手白山への取り付き点、西に張り出した尾根までは、湯沢噴泉塔への登山道が辿れるメリットがあり、この方がいいと、プラスな面を思い浮かべた。
手白沢温泉手前、沢の奥に残雪を抱いて聳える山、あれは根名草山と大嵐山であろう。
温泉宿の前にあるベンチは暖かい朝日を受けていた。ここでおにぎりを食べ、休憩を取った。
いよいよ手白山への登山開始である。1750m地点の尾根までは、湯沢噴泉塔への道であり、良く踏み込まれた明瞭な道であると思っていた。だが登山道はやっと雪の下から開放されたばかり、雪解け水に荒らされ、新助沢の渡渉点はつい道を見失うほどであった。一度歩いた道であったが、周囲に視線を配り、ケルンや赤布を捜しつつ、これを渡った。
さらに、ゆっくりとシラビソ、コメツガ等の原生林の中を登った。雪による倒木が多く、道が塞がれると、残雪の中にこれを捜す。常に焦ってはならないと自らへ気を落ち着ける。
やがて1750m地点の尾根に到着し、地図を取り出す。ポカリスエットを一口飲み、気を静める。いよいよ未知の山への登りである。コンパスで稜線にある1799mピークに合わせた。
道のない倒木だらくの原生林の中はうっそうとしていて気が重かった。
尾根へと足を踏み入れた。次から次への倒木と苔、見通しのない原生林の藪で、私にとっては初体験であった。今年登った藪山は、葉を落とした広葉樹林ばかりの、比較的明るい尾根だった。手白山の藪は、暗くて、今にも熊でも出てきはしまいかと、不安が頭の中に充満してきた。ザックに取り付けた熊除け鈴の音ばけが、シラビソ、コメツガ等の原生林に響き渡っていった。
30分後稜線に飛び出した。稜線には薄い踏み跡が現れ、木には赤布が下がっていた。私の登って来た尾根よりも、もう一つ先の、東尾根を登るのが一般的のようであった。
稜線には時々残雪があるものの、今はしまっていて歩き易かった。
少し歩いた南斜面に、ミネザクラが満開に咲き、太陽の光を浴びて、眩しいくらい美しい。暖かく、快適な稜線歩きである。南には何時の日にか登りたいと思っている、高薙山が雪を抱いて一際大きく、さらに大真名子山から子真名子山、女峰山への雪の山が続いていた。
1830mピークを越え、さらに西に進んで行く。稜線の南は展望が得られたが、北方は原生林が視界を閉ざしていた。前方に小高いピークが見えた。どうやら山頂のようである。
9時20分、1849.2mの手白山の山頂に立った。稜線に到達してから40分、手白沢温泉より1時間40分のタイム、順調だった。ピークには三角点標石が埋められ、小さな木製と、M大のカラー鋼板製との山名板が木に下げられていた。そういえばM大のヒュッテが手白山の麓に建っていて、登って来る時、案内板を目にしていたのだ。
西には根名草山、大嵐山が梢越しに見えた。地面に腰を降ろして、パンを口へ運んだ。この静かすぎる手白山頂、今は誰も登って来はしない。私一人が満足感に浸りつつ独り占めしていた。
20分は瞬く間に過ぎていた。帰路の長い道のりを考え、下山する。
踏み跡と赤布の稜線は何の不安もなかった。尾根の下りは自分の目にイヤッという程焼付けていたので、迷うことなく登山道へ降りることが出来た。
手白沢温泉へ下る途中、北の展望が開け、いずれは登ろうと思っている平五郎山を確認し、こねをカメラに納めた。
手白沢温泉から女夫淵へはタラノキやコシアブラの木の芽を取りつつの、楽しいハイキングとなり、来る時よりも、40分のタイムオーバーとなってしまった。

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