35.遥かに遠い頂にテント泊単独行・前白根山~白根隠山〜錫ヶ岳

     錫ヶ岳 2388m白根隠山2410m 前白根山2373m 地図:男体山・丸沼2002.6.8〜9  天候:晴れ 単独行
コースタイム:(6月8日)湯元温泉7:30−湯場見平8:10−前白根山10:30-10:40−白根隠山11:15−錫の水場14:05-14:15−錫ヶ岳15:05-15:25−
錫の水場15:45(幕営)


山行記録:栃木と群馬との県境にあって日光白根山を南に目で追うと、大きくどっしりとした山容が見える、これが錫ヶ岳である。中禅寺湖や戦場ヶ原からもこの錫ヶ岳を望めるが、以前宿堂坊山へ登った時、北に聳える錫ヶ岳を望んで、是非登りたいと強く思った。
今年2回目のテント泊単独行を、以前から登りたいと思っていた錫ヶ岳へ向かった。どのコースから登ろうかと考えたが、単独行であるから、未知の山へ踏み込むならば、やはりオーソドックスに日光湯元温泉から前白根山、白根隠山、白錫尾根を辿って錫ヶ岳をピストン登山が無難だろうと計画し、錫の水場へ幕営する事とした。
自分としては余り体力に自信がなかった。何せ今年の山行は日帰りで、しかも一日に4山、5山も登れる低山が多かった。やっと3月に入ってから栗山地区の残雪の山や藪山へ登り、5月の男鹿岳と大佐飛山への山行が最も厳しかった山行と言える私だった。
今回は特にザックを軽くしたく、あえてテントをツェルトにして初めての幕営予定だった。
日光湯元温泉駐車場を7時30分歩き出した。昨年の12月初め、白根山への新雪訓練でここから白根山頂をピストン登山したが、当時あった雪は消え、スキー場は草原に変化し、これを一直線に登って行った。久し振りの大型ザックはやはり重く、足元を見つめつつ、一歩ずつゆっくりと登って行った。たちまち大粒の汗がポタポタと地面に落ちて行く。
梅雨入り前のこの時期、気温は高く、汗は流れる様に噴出して止まらない。外山尾根が近づく程、登山道は雨水に深くえぐられていた。やっと尾根に到達出来て一息を入れた。
ここからの前白根山への尾根歩きは、何回も歩いた道でもあって、比較的楽に辿る事が出来た。
大きなドーム型の日光白根山が姿を現して来た。残雪が眩しいが、その量は少なかった。
やがて前白根山に到着した。時計は既に10時を廻ってしまった。中年の女性6人が山頂を独占し、単独行の男性が気の毒な程で、大きな笑い声を上げての食事中だった。広げられたシートは大きく、益々男性が小さくなって行く様に感じられた。
彼にお願いをして、白根山をバックにして記念写真を撮って頂いた。五色沼の緑の水が印象的だった。白根隠山より白桧岳、さらに白錫尾根を辿った先に錫ヶ岳を確認出来た。それは遥かに遠い頂だった。さらにその南には日本百名山の皇海山を望めた。女性達の余りに元気な声に圧倒されて、私は10分で前白根山頂を降りて、白根隠山へ向かった。
岩のゴロゴロした急坂を下り、その後は緩やかな尾根を歩いた。避難小屋、白根山への道と別れて直進する。
尾根には僅かに踏み跡が着いていて、これを辿って登って行く。左に小さな小屋があった。これはかつての雨量観測所で一人用避難小屋に使えそうだ。やがて白根隠山頂に到着した。
中禅寺湖方面から見ると、この山が白根山を隠すが如く聳えているのでこの名が付けられたのであろう。この山頂からは、まるで対話をする様な近さで白根山が見え、反対の東側は男体山とそれに抱かれた中禅寺湖とを美しく眺望出来た。ザックを降ろし、おにぎりとお茶の昼食をとりつつ、この素晴らしい展望を満喫した。
白根隠山頂を下る。ここが錫ヶ岳への縦走で最も危険度の高い地点で、崩落の進むガレ場となっていた。白桧岳へは一旦急に下り、痩せた尾根を辿るが、この下りはつづら折りに高度を下げて行くが、大型ザックを担いでいると、ついバランスを失いがちで、ゆっくりと注意しつつこれを下りきった。
鞍部よりは踏み跡を辿って疎林の尾根を歩き続けた。やがてコメツガ、シラビソ等の樹林が囲む白桧岳に到着した。先ずは休憩だ。
いよいよもって寂しい程静かな尾根歩きとなる。少し白桧岳を下ると、ここは展望が良く、東に中禅寺湖と男体山、そして正面は錫ヶ岳を望めた。未だ未だ遠いピークだった。今日はこの白錫尾根を歩いていろ人はいないらしく、私の出現にびっくり顔の鹿の数ばかりがやけに多かった。
笹の斜面を下り切ると、後は樹林の中である。広い尾根はどこがその尾根なのか判別しにくい程で、木々に付けられた標識や赤布等を常に目で探しつつ、踏み跡を辿り進んで行った。救いは最も気になっていた深い藪はほとんど苦にならない事だった。その代わり樹林の中に残雪が多く、踏み跡を覆って判らなくなっている個所の予想以上に多い事だった。
スプーンカット状の凍てついた残雪をコメツガ等の落ち葉が覆ってさらに寂しい世界だ。二つ目のピークが2296mであろう。南斜面には残雪は消え、樹林帯の踏み跡を辿って、下って行った。錫ヶ岳が樹林越しに、どんどんと近づいて実に頼もしい感じだ。
今日は快晴であり、時間もたっぷりとあった。
前方に開けた裸地が現れ、「水」の標識があった。ここが「錫の水場」、今日の幕営地だった。ザックを降ろして、サブザックに雨具、水、行動食を入れる。大型ザックは木に立てかける。ここのテント場は申し分のない明るさを持ち、スペースも充分だった。
一休みの後、錫ヶ岳へ向かった。
樹林帯を抜けると、小笹が茂る錫ヶ岳本体への登りとなった。今までの大型ザックと違い、背負っている事も感じ無い程の軽さとなったから、最後の登りも息も乱れる事がなかった。
14時35分、憧れの錫ヶ岳の山頂に到着した。三角点標石は小笹の中にあり、木には3枚もの山名板が取り付けられていた。
残念ながら、展望はない樹林に囲まれた山頂だったが、遥かに遠い錫ヶ岳の山頂に立てた事、それだけでも充分幸福感に浸れた。残しておいた最後のおにぎりを食べると、これは又、格別な美味しさだった。
20分後、山頂を降りた。水場へは快調に歩き続け、わずか25分で到着した。
初めてのツエルトでの幕営だったので、少々とまどいながら、立ち木や木の枝を刺したりしてロープを張り、ツエルトを張った。水場は気持ちの良い所で、冷たい水をつい飲み過ぎてしまった。
ツエルトの幕営はテントと違って、雨が降った場合は少々不安だったが、雨は降らなかった。風は結構強く、梢を揺すっていたが、幸いにもテント場は樹林に囲まれていたので不安はなかった。ボサボサとツエルトの周りを歩き廻る動物、鹿かオコジョなのかまるで、夢の中の出来事だった、そんな気さえした。
タイム:(6月9日)錫の水場5:30−白桧岳6:30-6:40―白根隠山7:30-7:40
前白根山8:20-8:30―五色山9:40-10:00―前白根山10:40―
外山分岐11:30−外山12:00-12:15−外山分岐12:30-12:40−
湯元温泉14:10
山の朝は特に気持ち良い。朝食を済ませ、5時30分歩き出した。風はやや弱くなったもの
の、ここは樹林に守られていたからいいが、白根隠山から前白根山へかけては強風をまと
もに受けるだろうから覚悟しなければならない。
あとの注意すべきは残雪地帯だけだ。ここは赤布やトレースを確認しつつ、ゆっくりと歩
き続けた。やがて白桧岳へ到着し、一息入れた。
いよいよ白根隠山への登りである。風は強く、大型ザックを背負う私は益々風は強く感じ
る。足元はザレ地の急登だったから、気持ちを集中させて一歩一歩をしっかりと蹴り込む
様にして登り続けた
どうにか白根隠山頂に到達出来た。しかし白根山はガスが山頂を隠し、風はこの山頂より
もさらに強そうだ。予定では帰路に白根山から五色山そして前白根山を考えていたが、強
風とガスの山頂では無理は禁物と、今回はパスした。
休む気にもならない強風の中だから、強風に耐えつつそのまま歩き続けて、前白根山へ取
り付いた。目も開けられない程、砂混じりの風が頬を打って来て痛かった。
前白根山頂に到着した。昨日、展望を楽しんだのが嘘のような山頂となっていた。
休まず西に向きを変え、五色山を目指した。鞍部近くで、風を避けて一息を入れた。ザ
ックをデポして、カメラと三脚を手に五色山のピストンへ向かった。
五色山頂よりは、スタート地点の湯元温泉街と湯ノ湖を見下ろす事が出来た。ここの強風
は未だ収まらなかった。
この五色山へは過去何度も登っていたが、山頂での写真はたった一枚すらもなかった。
強風の中、写真を撮り、最後にセルフタイマーで自分自身の記念写真を一枚撮ろうとした。
山名標識をバックにしてシャッターが下りる寸前、無常にも突風が吹いて、カメラを抑え
る間もなく、三脚は倒され、カメラは地面にガツンとぶつかった。
結局カメラは壊れてしまって使用不可となった。やむなくもう一台のカメラで無理やりに
シャッターを押した。(後日引き伸ばすと、やはりピンボケ、かろうじて五色山頂は読めた。)
前白根山頂へ戻り、再び重いザックを背負い、尾根を下った。湯元温泉への下山口へザッ
クをデポして、最後の山、外山へカメラだけを持って薄い踏み跡を辿って直進した。
意外にも、誰かが藪やシャクナゲを刈り払って、外山の山頂に難なく到達出来た。東側が
開けていて、戦場ヶ原を見下ろせ、その先には男体山が大きく聳えていた。ここには強風
は届かず、静かな頂きとなっていた。コメツガの木に山名板が打ち付けられていた。
私はこれをバックにして、カメラを向け、両手を伸ばしてシャッターを押した。(後日現像
したが、これもピンボケだった。かろうじて山名は読め、山頂記念写真の証明は出来た。)
後はゆっくりと急坂を湯元温泉に下り、膝が泣き出す頃車に戻った。時に15時だった。
湯船に浸り、疲れた筋肉を癒した。カメラを壊して残念だったが、憧れの錫ヶ岳を無事登
る事が出来て、満足過ぎる山行だった。   

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