63.銃声響いて腰も引ける・巣神山   1226m


期間:2003.2.22   天候:晴れ  単独行  地図:足尾
コースタイム:巣神沢林道路肩9:20−古登山道9:45−三角点10:20−巣神山11:30-11:50−登山道12:40−巣神沢林道路肩13:10


山行記録:足尾町の西、庚申沢と餅ヶ瀬川に挟まれた山波の中にあって、最初にピークを持ち上げているのが巣神山である。
先週、足尾の大萱山と石倉山を一人で歩いて来たが、雪は私の予想を遥かに越えるスピードで消え、稜線の北斜面と、山頂部にのみ残っていた。
石倉山頂手前より渡良瀬川の西に袈裟丸山を望み、その手前の足尾の山々が手に取る様に眺められた。
土曜日は先ず渡良瀬川鉄道、原向駅の西にある巣神山を目指した。この山へは2.5万分ノ1地図に、北の庚申沢側よりの登山道が記載されていた。
車で銀山平方面へ入ってみたが、道ははっきりとしたものはなく、まして北斜面は残雪も豊富だった。今日登るには時期尚早の気がして、原向駅の方面よりに変更した。
林道が巣神沢を横切り、さらに奥へ伸びていたので走ってみると、最後の民家の先にてチェーンで閉鎖されていた。ユーターンしようと思ったら、ここはアイスバーンとなっていてヒヤリとさせられた。方向を変え、巣神沢近くの路肩に駐車し、山支度を整えた。
今の時期は特に鹿の狩猟に山へ入っている人達もいるので、ラジオと熊除け鈴は必携品だった。
ラジオを点けて、巣神沢の右岸につけられた踏み跡を辿って行くと、程なく沢を渡る。踏み跡は右手の尾根へ廻り込みつつ登って行く。私はこれを忠実に辿って尾根に登って行った。どんどんと沢音が遠ざかり、830mピークに到達、休憩し水を飲む。
さらに尾根を登り進むと、桧の植林地が現れ、ここには鹿の食害への防護柵に突き当る。
この柵に沿って登ると、支尾根は痩せ、北への向きを変える。西側は巣神沢へ落ち込む崩壊地のえぐられた危険地帯で、実に寂しい痩せた尾根になった。巣神沢の谷奥に巣神山頂が見えて来た。ここへは北へ迂回した尾根を辿って行かねばならない。
東の桧は未だ若く、この梢越しには先週登った大萱山が山頂の電波中継のポールも確認出来た。
東よりの尾根が合流して来ると、ここには登山道があった。昔日はかなりの人達が辿ったであろうと思われる巾50cmもある立派な道だった。落ち葉が埋めたこの道を歩くのは余り気乗りせず、多少アルプダウンのある尾根を確実に歩き進んだ。この尾根にはコンクリートの境界杭が埋められて歩き易く、藪はさしたる事はなかった。又、北側は桧の樹林、南は広葉樹林と明確だった。
歩き始めてジャスト1時間、945mの4等三角点峰に到着した。
登山道はこのピークを南より迂回していて、下り切った鞍部で再び合流し、今度は北斜面を辿っていた。地図ではこの鞍部へ北の庚申沢より登山道が記載されていた訳だったので、注意しつつ歩いていたが、それを見つける事は出来なかった。
道は尾根をつづら折りになって、高度を上げていたが、落ち葉がこれを埋め尽くしていた。尾根にも残雪が現れ、さらに高度を上げる程、その量を増して来た。遠くでズドーンと銃声が響いて来た。私はラジオのボリュームをさらに上げた。猟銃を気にしつつ登山するのは何とも物騒なもので、単独行には特に心細い。
尾根には登山者のワカンのトレースはあるが、猟師と犬の他、大きな熊の足跡も残されていた。
トレースは1120mピークを越え、さらに進むと、1140mピークで向きを南へ変えて、ほぼ直角に下り次のピークを目指して行く。ここにもトレースが残され、これを辿ると巣神山頂へ導いてくれそうな気がした。
既に歩き出して2時間近い。巣神山頂は目の前のピークの奥に覗くピークらしい。もう少しの頑張りだ。
時々雪を踏み抜くと、膝頭まですっぽりと埋まってしまう。ずっと続いていた境界杭も巣神山頂へ続いているらしく、時々残雪より顔を出していた。これは私には心強い方向指示ポイントとなっていた。
北斜面の登り、当然積雪は1m近い。救いは雪が締って、これを踏み抜く恐れのない事だった。下り切った鞍部の木に、草刈スキー場跡と書かれた標識。小法師岳と原向駅の方向をも記してあった。今は白樺やブナ、クヌギ等の広葉樹は太く大きくなっていて、とてもこんな所がスキー場だったなんてとても思えない山中だった。これも足尾銅山の賑やかな頃の名残の一つかもしれなかった。
やはりというべきか、トレースは猟師達のものが断然多く、猟犬の足跡と共に、ピークを踏み外して、南へと続いていた。私は常に尾根の中央部を心掛けて、確実にピークを踏んで次のピークを目指して登り進んだ。
11時30分、東北に細長いピークの肩に登り着いた。ここには大きな岩が残雪より顔を出していた。そしてその脇のクヌギの木には見覚えのあるM大のカラー鋼板が打ち付けられていた。既に文字は消えていた。良く見ると、ボールペンで巣神山の文字が記入されていた。
どうやら山頂に間違いなさそうである。さらに右に目をやると、小さな木製の山名板が木に括られていた。
雪が覆い尽くした山頂には1226mの三角点が設置してあるので、中央部の雪をピッケルで掘ってみたが、それを見出す事は出来なかった。南方がやや開け、群馬との県境尾根が望め、二子山の優雅な姿と、荒々しい袈裟丸山の残雪姿が確認できた。しかし北の男体山等の日光の山並は樹林に隠されて見えなかった。
おにぎりを取り出し、暖かいお茶と共にこれを味わった。風もなく、静寂な巣神山頂で味わうのは実に美味しい。展望は今一つではあったが、穏やかな天候の中、20分は瞬く間に過ぎていた。
下山は同じコースを辿って行き、1120mピークへ下った。と突然私は猟犬(ビーグル犬)に吠えられた。口笛を吹いて危害のない顔をして上げると、ビーグル犬は尻尾を振って挨拶を送ってきた。何とも物騒だったので周囲を見回したが猟師の姿はなかったが、谷の向こうから銃声が響き渡って来た。何とも悲しい山の中だった。
三角点は避け、古い登山道(これは壊れた祠があったから、登山道というよりも参道であったかもしれない)を辿りさらに下った。
登った時の踏み跡に別れ、直進の尾根にある道を辿り下って行った。さらに下ると、集落手前で、立派な石段のお社に到達した。これを下ると、原向集落で国道に出た。ここには廃校になった小学校があった。123年の歴史を閉じたという案内板、何とも寂しい風景、これが鉱山の閉ざされた足尾の姿であった。
13時10分車に戻り、無事巣神山行を終了した。

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