66.春を待つ・鴫内山      1413.8m


期間:2003・3・22   天候:曇り  単独行  地図:板室
コースタイム:巻川橋7:30−1200m尾根9:10−9:20−鴫内山頂10:15−10:50−
       巻川橋12:10


山行記録:高速道を西那須野ICより那須ICへ走り抜ける時、高原山から安戸山、日留賀岳を望める。そして黒滝山の手前に、鴫内山と百村山が相対して、さらに那須連山へと続く。特に冬は、これらの山々の雪化粧を美しく眺めることが出来る。
この鴫内山へは過去に登山計画はしたが、一度は林道工事の為、この春は強風により倒木が林道を塞ぎやむなく鹿沼、羽賀場山へ登山変更となって未だ山頂には立っていなかった。
昨日は彼岸の中日、快晴の空を見上げ、何か損をしたような気分だった。早めに朝食を取り、家を6時出発。目の前に鴫内山を見上げた後、車を大巻沢林道へ進めた。心配だった林道の残雪はわずかしかなく、すんなりと巻川橋まで走ってここに駐車した。林業作業に向かう2人と挨拶を交わし、7時30分スパイク長靴を履いて出発する。
曇天であっても、風もなく気温も暖かく感じられて、やはり春だ。たちまち汗が噴出してきた。
雪の林道を進み、鉄塔への巡視路を見送り、さらに進むと、林道が分岐する。右の大巻川沿いのアスファルト道路を進んで行った。少し行くと、林道は立派な橋で大巻川を渡り、さらに東へと伸びていた。百村山、黒滝山へ登る時に横切る林道がこれだった。
少し藪になっているが、杉林の雪の斜面を詰めることにして、ワカンを装着して支尾根に取り付いた。雪はしまって歩き易く、ピッケルで藪をかき分けて登ること15分、林道に飛び出した。やはり林道分岐点で左を選択していればここへ到達できたのだ。林道はさらに奥へと続いていた。さらに尾根を登っていくと、雪の下に登山道か作業道らしきものが、つづら折りとなって、上へ上へと続いていた。藪の尾根よりも楽に登れそうなのでこれを辿ってみた。しかし山腹をトラバースする地点では、残雪に道形は完全に消えていた。ピッケルを突き立て、これを進んだが、どうにも歩き難く、滑落の恐れもあり、再び支尾根を辿って上へと登った。
大きな獣の足跡が大巻川上流の北側より登って来て、南へ去って行った。どうやらツキノワグマのようであった。
最初は杉、桧の植林地だったのが、桧は西側の沢沿いのみとなり、東側はナラ、クヌギ等の雑木林となった。私はこの雑木林の中をジグザクに登り進んだ。大巻川の東に丸くボリュームのある百村山が競りあがって来た。
2時間、雪の斜面を登り詰めると、ここは素晴らしい展望が待っていた。北に鴫内山、その東に黒滝山が大巻川の奥に控え、百村山へと馬蹄形に続いていた。さらに東には真っ白な三倉山、大倉山、流石山と連なり、そして那須岳へと続いていた。南には那須野ヶ原が広がっていた。ザックよりカメラを取り出して、次から次へとシャッターを押した。
目指す鴫内山は目の前に丸い雪の山容を見せていた。
鴫内山へは西へと尾根を回り込み、西側よりの尾根と合流してピークへ突き上げるが、山頂直下では、はっきりした尾根の形はなくなっていた。ここより山頂までの標高差は約200m、1時間もあれば登れそうな気がした。
ラジオでは、高校野球の春の選抜大会の開会式を伝えていた。司会は栃木県の高校生であった。この時期は鹿等の狩猟者が多く、ラジオと熊除け鈴は必携である。まして単独行の私にとっては、ラジオから流れるニュースや音楽は友達との会話のような貴重なものとなっていた。唯、ラジオが伝えるニュースは、イラクでの戦争ばかりが多く、一人雪山を楽しんでいる私は、別世界にいるようで、平和の有難さをかみ締めつつ、一人で静かな、この鴫内山を登り進んだ。
雑木林の緩やかな尾根、左は急激に落ち込む桧林となっていた。好展望はずっと続いていた。この辺りより、先人達が着け残した赤布等が時々見られる様になってきた。
尾根はやがてその姿を消し、桧の樹林へと変わっていった。とにかく上へ登るだけである。傾斜を増すと、雪面はワカンをはいていても膝まで潜ってしまい、さらに滑って登り難い
ピッケルを突き立て、少しずつ高度を上げて行った。頭上に空が見えてくると山頂は近い。まもなく山頂の肩に到達した。ここは背の低い雑木林となり、締った雪面は歩き易くなった。北にダムを前景にして、釈迦ヶ岳を主峰とした高原山が美しい。ダムの西に見えるのは送電線の鉄塔が立つ弥太郎山であった。
稜線を東に辿っていくと、西より数人パーテイのトレースが合流してきた。大蛇尾川より登って来たものであった。
10時15分、鴫内山頂に到着した。三角点標石は雪の下に隠れたまま、木には見覚えのある、M大ワンゲル部が打ち付けた、カラー鋼板製の山名板があり、これがなければ、ここが鴫内山頂とは思えない程である。目の前にはここよりも高いピークがあり、私は休まずにそのピークまで登ってみた。しかしここには何の標識もない。先人達のつけたトレースは未だ新しく、昨日登って来たらしい。そして、さらに黒滝山へと続いていた。
再び鴫内山頂へ戻ってザックを降ろした。風はほとんどなかったが、木々のつぼみは微かに揺れて、静かに春を待っていた。この頂は、黒滝山へ続く稜線の一つのピークみたいで気の毒に思える山頂であった。
北方だけが展望が開けて高原山を望めた。東には那須の山並みが樹林越しとなっていた。登山前に思っていたよりも、苦労することもなく、3時間足らずで山頂に立てた。これはラッキーだった。
山名板をカメラに納め帰路についた。他人のトレースへ迷い込まないよう注意し、自分のトレースを忠実に辿って下った。途中より真東の斜面を一気に滑り降り、林道へ降りた。
12時10分、無事に車に戻った。大巻川の水の音はサラサラと心地良く、山中へと静かに響いていた。

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