79.私の目の前を熊の親子が歩いて行った・中倉山  1530m


期間:2003・6・21  天候:快晴  単独行   地図 中禅寺湖
コースタイム:銅親水公園駐車場9:35−840m尾根取付10:25−
1100m尾根熊出現11:00−山頂肩12:00−中倉山12:15−12:55−尾根取付点14:00−駐車場14:45


山行記録:以前、山の会の定例山行で仁田元沢の沢登りに行った事があった。その時は車
を林道のかなり奥まで走らせる事が出来た。しかし現在は銅親水公園の所にゲートが出来
て、一般車は進入禁止となってしまった。
私は駐車場より、砂埃の道を一人歩き出した。梅雨の時期にしては、今日の天気は異常な
程の快晴で、そして非常に蒸し暑かった。宇都宮では30度を越える予報となっていた。
ここ足尾も同様で、湿度は高く、蒸し暑かった。少し歩いただけなのに、たちまち汗が噴
出して、ポタポタと道へ落としながら歩いて行った。
中倉山は足尾の西、松木沢と仁田元沢の合流点、その突き当たりにある山で、ロッククラ
イミングのゲレンデ、松木沢ジャンダルムをその北斜面に有している。
私は中倉山を望み、ほとんど裸地に近い北斜面の尾根を登るのは止めた方が良いと判断し
た。仁田元沢側の南の尾根は樹木も生えていたので、こちらを登ることにした。
駐車場より林道を歩くこと約1時間、井戸沢の先に大きく張り出した尾根に取り付いた。
ここは標高840m地点であった。尾根の南、仁田元沢支流には堰堤が築かれていた。
裸地を復元する為、植えられた木や芝の中にある尾根をゆっくりと登って行った。この尾
根は乾いた地表を時々覗かせていたので、この芝を踏みつける事に、私は何とも申し訳な
い思いがした。
そんな事を思いながら、上を見上げてゆっくりと尾根を登り進むと、15m先の尾根を横
切る黒い動物。しかも三匹もいた。まぎれもないツキノワグマの親子、母グマと二匹の可
愛い子グマの一行だった。私は一瞬緊張したが、母グマは私の事など気付く様子もない。
まして子グマは母グマについて行くのに夢中であった。時に11時、標高は1100m地点
であった。
私は余りにも近くを通り過ぎて行く三匹の親子グマを、あっけに取られた様に眺めていた。
まるで野生の動物映画かテレビを見ている様だった。母子クマは東から西へ山腹をトラバ
ースして進んで行った。しかしカメラはザックの中だった。私は自分が安全な位置にいる
事を確信し、ザックよりカメラを取り出して、クマの母子が見えるであろう、次の尾根へ
出て来るのを待った。やがて母グマを先頭にパンダの様に丸く、ゴムマリの様になって歩
く二匹の子グマが現れ、シャッターを切った。しかしここからでは、既に50mは離れて
しまっていた。
私は過去、東北の和賀岳で今日と同じく、母子クマと20m以内で遭遇したことがあった。
その時は母クマが私の近づくのをいち早く気付き、子グマを早くする様にして待っていた。
子クマはまるで、パンダに似た歩き方をして進み、今日と同じくその姿は何とも可愛いも
のであった。
とはいえ、再び私の進む尾根上にクマさんがやって来ては困ってしまう。熊除け鈴の音だ
けでは心細く思え、ラジオをザックより出して、スイッチを入れ、良く聞こえるNHK第一
に合わせ、再びゆっくりと登り出した。
足元の岩は、足尾銅山の黒煙が原因と思える、すすけた様な黒い岩肌を見せていた。当然
緑の草木は全滅した。これは悲しい歴史の証明でもあった。しかもこの岩は脆く、崩れ易
いので、油断すると、すぐ危険が待っている。足元を注意しつつ登り進んで行くと、いつ
しかクマの事も忘れてしまった。
展望は良く、背後には備前楯山が競りあがり、北には東より赤倉山、その左奥に半月山。
そして社山が鋭い三角錐となって聳え、その奥に男体山が顔を覗かせていた。
やがて潅木帯へ入って行った。今回のコースは尾根を辿って登るので、この尾根を外す事
がないように注意していればよかった。
山頂が近づくと、尾根形のはっきりしない樹林帯になった。しかし、ここには薄い踏み跡
がまっすぐに上に続いていた。時々赤テープも見かけるようになったが、鹿の通り道も多
く、ここは帰路の要注意ポイントであろう。
12時、樹林を抜けて、山頂の肩に到達した。稜線はコザサが覆い、北斜面はザレ地であっ
た。展望は抜群で、社山から続く稜線の西には大平山から黒檜岳、シゲト山、そして三俣
山で県境となる、松木沢の北側の峰々が一望出来た。振り返れば、赤倉山の手前に、松木
沢の黒々とした谷底、これは工事用の砂堆積地の様であった。前方の少し高いピークに、
山名標識らしきものが見えてきた。
12時15分、中倉山頂に到着した。そよ風が吹き、快適な頂きで展望は申し分がなかった。
この稜線を辿って行くと、沢入山、オロ山、そして庚申山を見通せ、その肩に皇海山が顔
を見せているのは嬉しい限りである。
ザックを置き、しばしコザサに腰を降ろして、おにぎりを食べながら、周囲の山々を飽き
もせずに眺めていた。
私にとっては、正に至福の一時であった。40分は瞬く間に過ぎていた。この先に続く稜線
への誘惑に耐えて下山する。
帰路は山頂肩に位置している、三角点標石を探しつつ下った。しかしこれを見出すことは
ついに出来なかった。
下山時のポイント、樹林帯への下りは方向に注意して下った。今日は見通しも良く、稜線
上の緑のコブを確認出来たが、ガスや雨の時等、見通しの悪い時は、やはりコンパスの使
用は欠かせない地点であった。
その後は、明確になった尾根をどんどんと一気に下って、無事に林道へ降りる事が出来た。
これで2万5千分の1の地図に記載されている栃木の山、275山のうち274山を登り
終えた。最後の山は大田原市、那須野ヶ原CC内にある三角点を持つ「金子山」である。
これは山登りではなく、ゴルフをプレーしながら立ち寄る丘である。
その日を7月6日(日)、私の誕生日に決めて予約をしていた。妻と友人の4人で行く事にし
ている。

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