67.雪未だ深い三岳        1944.8m


期間:2003・3・23   天候:快晴  単独行  地図:男体山
コースタイム:光徳牧場駐車場9:10−標高1600m地点大岩10:00−1680m地点鞍部10:20−1750m地点中央ピークとの平地11:00−三岳三角点ピーク12:40-13:00―1750m地点13:30−1680m地点13:45−光徳牧場駐車場14:35


山行記録:戦場ヶ原の北の奥、三岳はコメツガ、シラビソ、アスナロ等の針葉樹原生林に
覆われ、登山道もない寂しい山である。山容は南から見ればその名の通り、三つのピーク
を持つ山である。私は以前よりこの山へ登ろうとして、地図を眺めたり、本を読んだりし
て計画を立てようとしても、ピークは五つもあって、その内の三つのピークに立つことさ
え難しい。何とか三角点の置かれている最西端のピーク、1944.9mにだけでも登りたい
と考え、今月の9日に光徳牧場駐車場より逆川の源流部へ足を踏み入れた。残雪は1m以
上もあり今年は誰もここへは入っていないらしくトレースは無かった。9時半のスタートと
遅い時間であったから、雪は軟らかくなって、ワカンを装着しても、膝以上もズボズボと
入って一向にペースは上がらなかった。結局、南側のピークとの鞍部にさえ到達出来ずに
標高1600m地点にあった大きな岩までで2時間も費やしてしまった。この日三角点ピーク
に立つのは時間的に無理があり、さらにはワカンの縫い目が切れてしまってこの日の登頂
は断念した。翌日ワカンの修理を出し、2週間の修理期間をお願いして、これを短縮し、3
連休前に受け取ることが出来た。
昨日は板室の鴫内山を登って、最終日の今日、三岳へやって来た。コースは前回と同じく
光徳牧場より西北の逆川を遡って、鞍部よりほぼ真北に三角点ピークへ一直線に登り詰め
て見ようと考えた。このコースの難点は、原生林の密度はいかほどなのか、積雪の量はど
うか、山頂の直下の急勾配を登るには、私の体力でも大丈夫だろうか?と不安が頭を横切
った。とにかく行ける所まで行って、体力的に無理な場合や、時間的に難しい時は引き返
そうと思いつつ9時10分歩き出した。引き返すタイムリミットを13時とした。
先々週の時はクロスカントリーを楽しむ人達が多かったが、今日は3、4人と少なく、まし
て、登山姿の人は皆無であった。
大学、山の家の脇を抜け、水道施設の先へ歩き進んだ。前回は無かったトレースが残され
ていた。先週やって来た、3人か4人のパーテイらしい。そんな訳で、前回には2時間もか
かった標高1600m地点にある大きな岩まで、わずか50分、10時には到達していた。これ
ならば今日は楽に山頂に立てるような気がした。
そのまま歩き続け、1680m地点の鞍部には10時20分到着し、一息を入れた。
目指す三岳、三角点ピークが真北の方向に頭を現して来た。ここまでは順調過ぎるペース
だった。やはり先人たちのトレースのおかげであった。さらにこのトレースも真北へと尾
根を目指していた。私の思う方向と一致していたので、これを辿ることとした。
南斜面の雪は軟らかく、ワカンに直ぐにくっついてしまう。まるでダンゴのようになって
歩きにくくストックでこれを落としつつ、登り進んだ。
1750mの平地、ここは三岳の中央ピークと三角点ピークに挟まれた暗く鬱蒼とした樹林の
中で、ここにも古い赤テープが2、3個所散見出来た。ここより先人達のトレースはさら
に北東へと向きを変えていた。
私の予定は、真北へと三角点ピークを目指し、一気に登る考えだったから、ここで先人達
のトレースと別れることとして休憩を取った。時間は11時になっていた。標高差は約2
00m、何とか12時頃には山頂に立てるだろう。タイムリミットは13時、未知の山域
へ足を踏み込んだ。
雪積は1m以上もたっぷりとあって、ワカンを装着していても、常に膝までは沈み込んで
行く。コンパスで方向を確認しつつ、とにかく上へ、上へと僅かづつ登って行った。
周囲はアスナロの木が多くなり、シラビソ、コメツガ等の鬱蒼たる原生林である。そんな
中、可愛いウサギの足跡や鹿の足跡がついている。さらに大きな足跡、これはどうやらツ
キノワグマの足跡らしい。何とも不気味な山中となった。ラジオからは高校選抜野球の実
況が流れて、このボリュウームを上げてさらに登った。
密生した原生林の急斜面では、ザックに付けたピッケルが木の枝に引っ掛かって私の進行
を妨げる。やむなくピッケルを右手に、スキーのストック2本を左手に持って、不自由な
格好での登山スタイルとなってしまった。やはり織り畳むことが出来るストックが欲しい
と思った
光徳牧場よりこの三岳のピークを眺めると、真っ白な斜面がわずかに見えたが、これは雪
の斜面の木の少ない場所で、雪崩の予想される危険地帯であろう。ほとんどが黒々として
針葉樹が山肌を覆っていた。どこを登ろうとこの樹林帯を行けばどうにか私でも登れそう
な気がした。
積雪の多い斜面は、中々自分の体を持ち上げるのもままならず、一歩登って、二歩滑り落
ちるような状態で、登山ペースは遅々として上がらなくなってしまった。
時計はたちまちにして12時となっていた。ここはやはり食料の補給が肝心である。ザッ
クを降ろし、おにぎりとよもぎまんじゅうを一個づつ、お湯とポカリスエットで喉を潤
した。高度計を見ると、残り100m、先ほどの休憩地点との中間点となっていた。
ここまで登れば、山頂はどんなにかかっても1時間あれば登れるだろうと思えた。右には
大きな岩、これを左より回り込んで登ると、今度は左側が大きく岩が切れ落ちていた。尾
根のような所を選びつつ、ピッケルを突き立て、木を掴みつつ登り進むと、やがて左手の
樹林越しに、空が見えてきた。ピークが近いことが確信できた。そして私の頭上の空も樹
林の上に見え出した。
木を掴み、体を一気に持ち上げると、山頂の肩に達した。さらに平坦な樹林の中を西に3
分も進むと、木に山名板らしいものが目に入った。どうやら三岳山頂のようだ。
12時40分、どうにか三岳の三角点ピークに立つことが出来た。ここには立派な山名板
が木に括られていた。わずかに平らな山頂は樹林に囲まれ、三角点標石は雪の下に隠れた
ままであった。良く見ると、北の尾根から麓で辿った、懐かしいトレースが登って来てい
た。どうやら彼等は、中央のピークとの鞍部より、北へと廻り込んで、緩やかな北の尾根
を辿って、このピークに登ったようだ。地図を良く見ると、このコースを辿った方が、登
り易く思えた。初めての三岳登山の私では、樹林の密度も知らないだけに、単独ではとて
も辿れないようなルートであったが、これが一般的な三岳登山ルートなのかも知れない。
ザックを降ろし、パンを頬張った。記念写真は撮ったものの、山頂からの展望はわずかに太
郎山を樹間より見るだけだった。
20分後、山頂を下った。わずかに東へ下った地点は展望が開け、戦場ヶ原を前景にして
男体山の雪姿を望むことができ感動した。
下山は自分が残したトレースを忠実に辿って下るだけである。登りの苦労が嘘のように、
1750m平地へは一気に下って、わずか30分で到着した。登りに1時間40分も費や
したのは何だったのだろうか。
南の斜面を下ると、ここは雑木林で太陽の光は強く、サングラスなしでは目をやられてし
まう。休むことなく歩き続け、15時前に車に戻れた。返りみれば三岳、とりわけ一番奥
に佇む三角点ピークを懐かしく眺めることが出来た。登り3時間半、下り1時間35分の
充実過ぎる程の、三岳単独行を無事終了できた。
喉はカラカラとなってしまったが、体は程よく疲れ、心地良い山行であった。

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