40.背丈を越す藪漕ぎの前黒山   1678.3m


期間:2002・8・11  天候:曇り後晴れ  単独行  地図:塩原
コースタイム:林道入り口P8:50―林道終点11:00−前黒山頂12:00−
       12:15−林道終点12:30−林道入り口P14:20


山行記録:7〜8月は、職場の人や友人達を案内して、尾瀬ヶ原、鳥海山、蔵王岳、槍ヶ岳から穂高岳縦走、そして富士山へ登った。その為栃木県の山とは、縁遠くなってしまった。夏山登山がメインの私にとっては、今の時期が登山の最盛期であり、アルプスへも登りたいし、必然的に、栃木の藪山が縁遠くなるのもやむないことだ。とはいっても気になる山は多い。その一つが高原山の東端、奥塩原に聳える前黒山だった。今年も隣の明神岳や新湯富士、あるいは日留賀岳や弥太郎山等、周囲の山々を登って、この前黒山を望見し、早く登りたいと思っていた。しかし、藪深いこの山への思いは、登山決意に至らず、とうとう8月も半ばとなった盆休み前の日曜日、やっと単身前黒山を目指した。
日塩道路より林道を少し入ったが、道は荒れていたので、5分程走って、植林時に使用したらしいプレハブ小屋の前に駐車し、8時50分歩き出した。
車はさらに奥まで入れたなと思いつつ、林道を歩き続けた。途中チタケ狩りの車が2台行き来したが、彼等の関心はキノコだけで、私が鈴の音を鳴らし、一人歩いて行くと、不思議に思えるらしく、キノコは取れたかと聞いてきた。私は山を登るだけだと答えたら、さらに変な顔をしていた。
沢の西に明神岳が高く望め、振り返れば北に、二方鳥屋山が見えるだけで、その他は霞の中となっていた。
やはり8月である。気温が上がり、汗が流れ出して止まらない。樹林の中の林道はほぼ無風状態で、ただひたすら歩き続けた。灼熱の太陽の光を、まともに頭上に受けないのが救いであった。
やがて、林道の真中に直径1m以上の大岩が転がっていた。ここよりはさすがのRV車も通行止め。道は一気にスズタケが覆って来ていた。道の中央に踏み跡が続いていたが、やがてそれも笹薮が密生して来て、道は明瞭でなくなった。藪はその丈を増し、膝下から腰、そして胸まで大きくなってくると、林道の道型さえも時には、怪しくなってしまう。唯、こんな山へも訪れる物好きな人もいて、赤テープが時々散見出来て心強い。
2.5万の地図には明瞭な林道が記載されていたが、道は既に廃道になってしまってからでも、かなりの年数を経過しているようだ。林道は前黒山と明神岳との鞍部へと伸びて、その稜線が終点と記してあったが、歩き進む程、その形状を失っていた。
この山も休火山の一つであろう。大雨時の土石流が林道を分断し、赤い地肌を見せて崩れ易く、これを横切る時は要注意であった。
徐々に稜線が近づくと、道型はつづら折りとなって高度を上げる。この辺では土石流により完全に流失、崩壊し、その形を失っていた。
どうにか道型を忠実に辿って、前黒山と明神岳の鞍部の林道終点に11時到着した。南側は火口跡なのか、崩壊地のように急激に切れ落ちていた。東には、目指す前黒山の頂が、初めてその姿を見せていた。今までは廃道となって久しい林道の藪漕ぎを続けた。登山とは言えないような虚しい時間だった。岩に腰を降ろしてポカリを飲んだ。前黒山頂を見上げてコンパスで方向を合わせた。
いよいよ本格的な藪山への突入である。既に私の背丈を越えたスズタケの薮は密度をさらに濃くして私の前進を阻んでいた。南側に崩壊した薙ぎが迫っていた。これを特に注意して、一直線に笹を掻き分け、これを鷲掴みにして、体を上へ、上へと持ち上げた。
登山というよりも、これは藪との戦いである。頂上方向に見えた樹林を目指し、ただひたすらに笹を分け、藪を漕ぎ、笹を掴んだ。こんな戦いを1時間も耐えると、山頂が近づいてきた。
山頂の肩に到達した。しかし山名板は見当たらない。とにかく東を目指して右折し、ほとんど平坦な山頂部を歩き進んだ。辛い藪も薄くなり、靴を隠す程のコザサである。
東の端が近づく頃、杖のような木の枝が地面に刺してあった。その下の笹の中に三角点標石があった。周囲を見回したが山名板は無かった。時計は丁度12時を指していた。
私はザックを降ろし、紙を取り出してボールペンで前黒山を書き、セルフタイマーにて山頂での記念写真を撮った。
この前黒山頂はコメツガ、シラビソ等の針葉樹に囲まれ、展望は一つもないが、厳しい藪との戦いを終えて立つことが出来た。私は誰もいないこの山頂で、一人この達成感と満足感とに浸る事が出来た。
カップヌードルを食べた後、下山する。良く目に焼き付けた下山方向は明神岳への稜線。南と西の眺望が得られるはずであったが、既にガスが出てきてしまい、釈迦ヶ岳も明神岳もその山頂部を隠してしまった。
再び背丈を越した藪の中である。登りに1時間も費やしたのに、下りはわずか15分、あっという間で林道へ降り立つ事が出来た。さらに2時間を歩き続け、14時20分、車に無事戻った。
帰路、鬼怒川温泉の岩風呂で汗を流した後、帰宅した。顔が痒いので鏡を見ると、何と私の顔には小さな笹ダニが吸い付いているではないか。
北海道のペテガリ岳以来の笹ダニ被害であった。笹ダニは北海道だけしかいないと思っていただけに、何ともびっくりした前黒山行の笹ダニであった。

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