68〜69.残雪のテント泊単独行・小佐飛山から長者岳


標高:小佐飛山1429m  長者岳:1640.2m 単独行 地図:日留賀岳.板室.
塩原.関谷
期間:2003・4・12−4・13      天候:4・12曇り後雨4・13曇り後晴れ
コースタイム:4月12日 萩平10:05−805mピーク10:40−1110m
ピーク12:30−1343mピーク(反射板)14:00−小飛佐飛山
15:10幕営
       4月13日小佐飛山5:40−1409mピーク6:30−長者岳8:45―9:05−小佐飛山11:45−12:05−萩平15:20


山行記録:大佐飛山と奥塩原の日留賀岳に挟まれ、大蛇尾川と小蛇尾川を分ける山塊が
佐飛山と長者岳
である。
4月12日(土)の天気予報は前日より一日中雨の予報であったのが、朝に目を覚ますと、道
路は濡れていたが、雨は止んでいた。以前より計画していたが、12日は一日中雨の予報
であったし、昨日は埼玉県でのゴルフに参加しての寝不足等で日曜日だけの日帰り山行だ
けにしようと思っていた。しかし雨が降ってなければ話は違ってくる。今日を逃すと残雪
は益々少なくなり、藪漕ぎはさらに辛くなる。小佐飛山から長者岳へのテント泊ピストン
山行を決行することとし、山の準備を急遽始めた。準備は全然してなかったが、食料のア
ルファー米が2袋あり、その他はコンビニで調達すればよい。
しかし、我が家のねことわんちゃんへは明日の不在を考え、せめて今朝ぐらいはと、いつ
ものように朝の食事と散歩を付き合う。その後に自分の朝食を取って、宇都宮を出発した
のは、既に8時を廻ってしまった。でも今日中に小佐飛山頂に立てれば、明日の長者岳ピ
ストンをしてからの下山は、時間的にもそう無理な計画ではなく思えた。
途中、コンビニでの買い物を済ませ、登山口の萩平を10時5分歩き出した。大蛇尾川と
小蛇尾川との合流点下の堰堤下流を、飛び石で渡った。小佐飛山の取り付きは合流点の中
央に伸びてきている尾根の杉林を辿って登ろうと考え、さらに小蛇尾川を飛び石で渡った。
杉林の中には、つづら折りに登って行く作業道があり、これを利用して登って行った。林
の中には立派な石の社が奉られていたが、既に眼下になっていた。
やがて、左より東電の整備された巡視路が合流して来て、道はさらにしっかりしたものに
なった。尾根の上に出ると、小蛇尾川の上流に大きなダムを見下ろせ、ここで一息を入れ
た。余りの汗に、シャッツを脱いだ。久しぶりに担いだ大型ザック、テントにシュラフ等
の宿泊装備一式は重かった。
さらに、一歩一歩ゆっくりと登り進むと、杉林の中で道が二つに分かれた。赤テープが巻
かれた右の方を進んだ。大蛇尾川を見下ろし、つづら折りとなってさらに登り進んだ。尾
根を離れ過ぎるならば、尾根へと直登すればよいと思い、さらに作業道を辿って行った。
やがて道が二つに分かれる地点に着いた。左方の木に赤テープが巻かれていた。これは小
佐飛山への案内であろう。これを辿って行くと、やがて道はなくなり、杉林の中、藪を漕
いで尾根を目指し、さらに登り進んだ。やがて初めてのピーク、1156mに到着し、休
憩とした。空は曇っていたが、雨は未だ降っては来ない。
次のピークはボリュームたっぷりに前方に聳えていた。尾根は北西へと下り、そして細く
変化する。残雪が増え、靴がズボズボと潜って歩き難い。ここで初めてワカンを装着した。
南斜面になると残雪は少なくなり、その代わりに背丈を越す根曲がり竹が前方を塞いでし
まう。出来るだけ残雪を拾いつつ登るものの、まるで滑り台の如く、足をとられ、何度も
滑った。ここはだだっ広くて何処が尾根なのか判らない程だ。登る時はただピークを目指
せば問題はないが、下山時は要注意の地形であった。さらにやっかいなのは2.5万地図
の関谷、塩原、板室、日留賀岳4枚の合流点となっていた。ピークが近づくと、展望が開
け、東には大蛇尾川の向こうに、鴫内山から黒滝山が望見出来たが、楽しみにしていた
大佐飛山は雨雲が頂きを覆い、その雨雲は徐々にその高度を落として来た。西の小蛇尾川
の向こうには弥太郎山が近く、遠くに高原山が見えた。
ペースは一向に上がらず、ザックの重さが肩に食い込み、益々痛さを増した。心配してい
た雨も降り出して来た。樅の木の下で雨具を着た。
既に歩き始めて4時間近く経過していた。目の前のピークが小佐飛山であろうと、さらに
耐えてこれを登りきった。突然、私の目に大きな反射板を持った鉄塔が飛び込んできた。
一瞬私の脳裏には、塩那スカイラインで見かけた反射板がなぜここに立っているのだろう
か、何て変な事を思ったりしてしまった。念のため先人の記録を読んで確認するとここは
小佐飛山の40分手前に位置する、1343mピークであった。ここで一息を入れた。
1時間程でどうにか小佐飛山頂に到達出来るだろう。明日を思えば、さらに先へ進みたか
ったが、今日の私の体力ではとても無理は出来ない。雨はさらに量を増してきたので、今
日の幕営地を小佐飛山頂と決めて、さら歩き進んだ。
尾根をやや下ると、前方に小佐飛山が見えて来た。最後の気力を絞ってこの登りに耐えて
これを登りきる。15時10分小佐飛山頂に到着した。西半分は残雪が覆っていたが、東
半分は小笹が現れていた。木には黒羽山の会が吊るした小佐飛山の山名板があり、中央の
小笹の中に三等三角点標石が顔を出していた。
私は早速、樹林の中の笹の上にテントを張り、早々に潜り込んだ。今日は誰にも会う事な
く、小佐飛山頂まできてしまった。誰もいない山頂での、少々寂しい今年初めての幕営で
あった。時間は未だ早かったが、お湯を沸かし、夕食の準備を始めた。雪を溶かし、明日
の為の水を作った。夕食は例によってのカレーライスにビール付きである。後は濡れた衣
服を乾かし、PM7時にはシュラフの中で横になった。
夜半よりは激しさを増した雨がテントを叩き続けていた。ここより長者岳へは3時間の行
程、往復6時間を考慮して、6時出発を予定した。
余りに早い就寝だったので、目が覚めたので時計を見れば、未だ11時であぅた。何と朝の
待ち遠しかった事か。
4月13日、4時40分起床。先ずはお湯を沸かし、五目飯とパンとお茶の朝食を取った。
食後、テント一面に荷物を広げて荷捌き。テントに残す荷は大型ザック、サブザックに日
帰り食料、水にお湯にカメラを詰め、さらにテントが風に飛ばされ無い様に固定し、5時
40分長者岳へと出発した。
昨夜の雨は上がったものの、強い風はまだ吹き止まない。しかし曇天の空からの雨の心配
はなくなっていた。
尾根は北東へ伸び、150m下って、120m登り返す。残雪は昨夜の雨で軟らかく、ワ
カンを履いてもズボズボと潜り込む。今日の先行きは決して快適ではなさそうであった。
最初のピーク1409mに6時30分到着した。50分の行程は先ず先ずのペースであった。
緩やかな下りの尾根は北から北東へと廻り込むように続いた。
次のピーク、1453mへは80m下って、痩せた尾根を登り返す。南斜面は残雪が少な
く、手強い藪が顔を出す。とりわけシャクナゲの密生には苦労の連続で、体力の消耗を強
いられてしまう。この長者岳の登山適期は既に過ぎていて、やはり3月末がベストの様だ
今は未だ8時前、とにかくゆっくり行こうと、自らを励まし、そして慰めつつ先へと登り
進んだ。
東には鴫内山から黒滝山への山並みが間近い。西の高原山の左には、日光の赤薙山から女
峰山も望む事が出来た。背後では太陽が雲間より薄陽を放って来た。
尾根は明瞭で、ほぼ一直線に北東へと続いて迷う恐れはない。
弥太郎山は山頂近くに鉄塔が立っていてすぐに判ったが、既にやや後ろになっていた。そ
の登山口となっている塩那スカイラインの土平も明瞭で、昨年日留賀岳から鹿又岳を登り、
次の長者岳は登ることなく、延々と歩き続けた時、長者岳近くで見た反射板のある尾根も
確認出来た。そこは1524m地点で、東へ続く尾根との合流ピークが今日の私が目指す
ピーク、長者岳であった。山頂は真っ白く雪に覆われて朝日を浴びていた。昨秋は雪がな
く、黒々として木々に覆われていたその面影はなかったが、確信を持って眺める事が出来
た。ペースは一向に上がらなかったが、確実に一歩、一歩近づいて来たのが実感出来、喜
びがさらに強く湧いて来た。
やがて山頂の肩に到達した。ここからはほぼ平坦な雪原を10分程、歩き進んだ。今までの
残雪と違い、靴は潜ることなく歩くことが出来、8時45分待望の長者岳の山頂に立った。
この山頂も西半分は白い残雪が覆い、東半分は小笹が現れていて、この笹の中央に三角点
標石が測量用の三枚の白板と石組に囲まれ、顔を出していた。古い山名板があったが既に
文字は判別し難く、わずかに「者」だけが読み取れた。ここは樹木のない大展望に恵まれ
た素晴らしい山頂であった。
西の弥太郎山、日光連山、高原山が特に素晴らしいが、最も期待していた北の日留賀岳、
鹿又岳、そして大佐飛山はガスに包まれ隠れていたのが残念であった。
腰を降ろし、野菜ジュースでパンを一個口へ入れた。今までの藪や残雪との戦いが、まる
で嘘の様な、ゆったりと時が流れる正に至福の一時となっていた。
昨年の10月13―14日、日留賀岳や鹿又岳より眺めた長者岳は標高も低く、尾根の単な
る一つのピークとも思えたが、萩平よりこの長者岳へと登り進んだ今回の山行で、改めて
長者岳の山懐の深さを実感し、さらにアップダウンの連続する長い尾根を耐えて登り着け
た充実感と達成感が胸一杯に広がった。
山頂の素晴らしさは格別で、大いに感動出来た。名山である事を声を大にして言えた。
記念写真を撮り、20分後山頂を降りた。太陽の光は強まり、残雪はさらに軟らかくなって
いた。小佐飛山への帰路タイムは、登って来た時よりも1時間は早いと思っていたが、残
雪はさらに軟らかくなって靴は潜り、とりわけ南斜面のシャクナゲや藪はさらに立ち上が
り、私の前方を塞いでしまった。正に悪戦苦闘の連続であった。さらに小佐飛山への最後
の雪面の登りでは、突然の強風によって帽子は木の葉の様に飛ばされて、雪の斜面を滑り
落ちていった。私の油断だった。
11時45分、小佐飛山頂に戻った。先ずはたっぷりと水分の補給をした。ここからは萩平ま
で3時間の下り、もう不安はないだろう。休憩の後、テントを畳み、大型ザックへのパッ
キングを済ませ、12時5分、小佐飛山頂を後にした。
太陽はその光をどんどん強め、さらに昨夜の雨で残雪もかなり減って歩き難くなっていた。
下りの笹は滑り易く、まるで滑り台で、私は何回も滑り、尻餅、尻セードをした事か。
順調に下って行ったが、1230mピークよりの下りは迷い易い地点となっていた。丸く
広い山頂より下る尾根は、今一つ明瞭でなく、さらに2.5万地図の4つの合わさり目で
もあった。東から南へと廻り込む尾根よりも、南へ落ちる尾根の方が立派で、つい釣られ
少し下ってこの間違いに気が付き、引き返した。ここからの尾根は絶えず大蛇尾川を見下
ろして登って来た事を忘れていた。
一度下って、最後の登り返しに耐えると、後は私の疲れた体、特に足のまめの痛さに耐え
るだけであった。
15時20分、無事萩平に到着した。ここには可憐な、カタクリとイチリンソウの花達が私を
祝福してくれた。体は疲れ悪戦苦闘をしたが、今年一番の充実した山行で、私は満足感で
一杯になっていた。

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