72.寂しくもあり苔むした石の祠・平五郎山 1700m


期間:2003・4・29    天候:晴れ  単独行  地図:川俣温泉
コースタイム:楡ノ木沢林道標高1210m地点路肩7:40−1512mピーク8:40−1650mピーク9:20−9:25−平五郎山9:45−10:10−1650mピーク10:20−
       1512mピーク10:40−1210m林道路肩11:30


山行記録:あのきつくも素晴らしい山行だった高薙山より、間一日を置いた29日。以前よ
り登ろうとしながら未だ果たしてない山、川俣湖の北に位置する平五郎山を登ることに
した。この山もやはり、山の深さと、藪の厳しさについつい後回しになってしまった山で
あるが、その姿は麓から見る事は出来ない。
以前、手白山からの帰り道、この平五郎山を望見して、その山懐の深さに、静寂な味わい
を感じて、いつの日か登りたいと思った。
山懐が深いといっても、高薙山と違って、楡ノ木林道を終点近く迄車が入り、山頂に通ず
る尾根に取り付ける。標高は1700mであるから、登り3時間を覚悟すれば、どうにかなる
と思えた。
5時30分、愛犬の散歩と食事、さらには猫の食事を済ませ、宇都宮の自宅を出発した。
川俣湖の吊り橋を渡り、さらに鬼怒川の上流へ車を進めると、楡ノ木沢林道のゲートは開
いていた。この林道を走れるところまで入って行こうと、ゆっくりと進んだ。
標高1210mの林道崩壊地手前の路肩に駐車した。ここには一人用のテントが張られ、既に
登山者の姿はなく、出発したらしい。
7時40分、歩き始めた。林道は3分の1を残して崩れ落ち、車の通行は不可能であった。
北側より沢水が流れ、ここの崩壊も危険な程、20mは崩れ落ちていて、そんな中、フキ
ノトウが顔を覗かせていた。南には日光の山が赤薙山から女峰山、小真名子山、大真名子
山、太郎山、そして山王帽子山へと連なっていた。ここからは北斜面を見ているので、残
雪もたっぷりと残っていた。そしてさらに西の端に見えるのは、一昨日苦労しつつも登頂
出来た、高薙山が見出だせたのは嬉しい限りであった。
尾根が林道に張り出した地点に到達すると、ここにはそんなに古くない赤布がくくられ、
微かに踏み跡が続いていた。やはり先人達もここから登り始めているらしい。
いよいよ尾根の登りである。周囲の雑木はわずかに芽吹き始めていた。笹竹の藪は膝の高
さしかなく、苦労することもなく、尾根を忠実に登り進んだ。
赤布は10mから15m間隔で木に括られ、少々目障りな位であった。1374mの最初のピー
クを越えると、初老の男性が休憩していた。挨拶を交わすと、彼も平五郎山を目指し、昨
夜テント泊の人で、赤布を木に括り付けていた本人であった
ここより私が先行する。尾根は迷う事などない痩せ尾根が続いていた。時々古い赤テープ
が木に巻かれているのが見えた。やがて北東に向きを変えると、右手より、楡ノ木沢の東
の尾根が競りあがり、1512mピークにて合流した。
下山時の事を考え、私はここで初めて木の枝に赤テープを巻いた。ここまでジャスト1時
間を歩いていた。
尾根はほぼ真北に伸び、これを登り進んだ。シャクナゲの密生地もあったが、さして戸惑
うこともなく突破して行った。そして下った鞍部よりは、背丈を越える根曲がり竹の藪に
変化し、これの登り返しがさらにやっかいであった。残雪期ならば苦もなく登り進めたで
あろうが、今は藪を掻き分け、体を上へと持ち上げるのに大汗をかいた。時々藪に隠れた
倒木に、すねをいやという程ぶっつけてとにかく痛い。さらに尾根は幅広くなって来た。
大きなブナの倒木が現れると、これに乗って進行方向の確認をし、木に赤テープを巻きつ
ける。
登山ペースは一気にダウンしてしまった。ただ、平五郎山は標高1700mであったから、残
り約150mとなっていたのが、救いであった。どんなに苦戦しても、1時間もあれば山頂に
立てそうな気がした。
耐え凌いだ藪も終わりが近づいて来た。前方の梢越しに青空が見えてきた。残雪を留めた
標高1600mピークに到達した。ここで右折、ほとんど平らな東西に長いピークであった。
右より大きな尾根が合流してきた。倒木に腰を降ろし、パンを一個食べた。南に女峰山の
鋭いピークが望めて、一際美しく眺めることが出来た。
北の樹林越しに朧に見えるピーク、これがどうやら平五郎山頂のようであった。残雪を踏
み進んだ。しかし残雪は南斜面の登りに差し掛かると消えてなくなり、再び背丈を越える
藪が待っていた。でもここからは、確実に山頂が近づくのを実感できて、苦ではなくなる。
尾根は狭く、迷うこともない。そして再び残雪が現れ、平坦な山頂部の南端に到達した。
そのまま、気持ち良く歩き進むと、最高点に到達した。あたりをきょろきょろと、三角点
標石を捜したが、これは雪の下に隠れたままで、見つけることは出来なかった。真っ直ぐ
北に進むと、どんどん高度を下げてしまう。やや西へ進んでみると、今まで何回も山頂で
見かけた、RK氏の小さな木の山名板が、木の枝にぶら下がっていた。やはりここが平五郎
山頂であった。
時に9時45分、登り出して2時間5分は、私の予定登山タイムよりも1時間も早かった。
ザックよりカメラを取り出し、記念のシャッターを押した。さらに良く見ると、中央のコ
メツガの木の下には、苔むした小さな石の祠が祀られていた。何とも寂しげな、そして苔
に覆われた風情のある石祠であった。かつては、麓の人々から信仰されていたのであろう
が、今は気の毒なほど、誰からも忘れ去られてしまった。私は手を合わせ拝礼をした。
高薙山登山の3分の1で登頂できた平五郎山、残雪が既に少ないこの時期に2時間で登れ
これはラッキーだった。しかし、山深いこの平五郎山に立てたこの達成感は、高薙山の時
に勝るとも劣らないものがあった。
30分近くを山頂で過した後腰を上げ、下り始めた。ポイントは私が赤テープが取り付け
てきたから、迷うことはないと思っていても、時間の余裕は心の余裕、単独行には何より
の味方でもあった。
10分程で1600mピークに降りて、右折し、さらに藪の尾根への下りでは私が付けた赤テー
プを確認して藪へ突入した。
鞍部の少し手前でテント泊の男性と挨拶した。ずいぶんとゆっくりしたペースで登って来
た。山頂まで40分ですよ、と励ましの声をかけ、1600mピークでの右折ポイントと、その
少し先の山頂の様子を話してあげた。
ここからの下りは、彼が付けた赤布が20m以内にあった。迷うことはなかったが、これは
少々付けすぎであった。ルートファイティング感は無くなり、何よりも深山の趣を壊して
しまった。彼が帰路にこれを回収することを期待したい。
11時30分、無事車に戻った。予定を遥かに短縮した山行タイムであったが、満足感で私は
一杯だった。
帰路の楽しみはタラノメ採りだった。路肩に車を止め、わずかな時間でビニール袋一杯の
収穫だった。そしてさらに、川俣湖畔の温泉入浴で、充実した山行を終了した。

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