9.憧れのピークは静寂の中だった・台倉高山   2066.7m


期間:2001.10.21   天候:快晴  単独行  地図:帝釈山
コースタイム:馬坂峠7:00−2033mピーク8:3030-8:45−台倉高山11:30-12:00−
2033mピーク13:00-13:10−馬坂峠14:30


山行記録:県境尾根を田代山から帝釈山へと西に辿ると、馬坂峠で高度を下げ、さらに西に辿るとその尾根がきりりと高度を上げて鋭くピークを誇る山、それが台倉高山である。台倉高山へ登ろうと、今年の9月30日に馬坂峠より登ってみた。忠実に県境尾根を辿って登り進んで行けばいい、と安易に考えていた。そんな私の思いは、背丈を越える根曲がり竹の藪が立ちはだかり、私の前進を拒んで無残にも打ち砕かれてしまった。
1時間を労しても、最初のピーク1898mに立つのが精一杯だった。こんな調子では、遥かに遠い台倉高山へ登る事は時間的にも無理と判断し、ここで引き返した。後は倒木に沢山生えている白いキノコ、スギヒラタケをビニール袋2つも収穫して峠に戻った。しかし、峠の林道に戻る時に、余りにもキノコ採りに夢中になってしまって、見通しのきかない藪の中で少し方向を誤り、下山に手間取ってしまった。
林道へ出ると、峠のやや北側に赤ペンキ印を見かけた。よく見れば薄い踏み跡が樹林の中へと続いていた。どうやら台倉高山への登山道らしい。その踏み跡は県境尾根の藪を避けつつ、北側の福島県側シラビソ等の樹林帯へと入って、さらに続いていた。一度諦めた台倉高山登山であったので、今日の登頂は無理せず、後日の再訪は早朝を期す事にした。そしてこの日は未だ時間的にも早かったので東の帝釈山へ登ってから帰る事にした。
40分足らずで、日本ニ百名山にも選ばれている帝釈山頂に立つ事が出来た。余りにも便利過ぎて、この名山に失礼な気がしてしまった。しかしこの山頂に立って見れば、展望は抜群で、西に今日の登頂を断念した台倉高山、これを自分の目で捉える事が出来て感激した。
再登のチャンスは先約や社員旅行等で中々スムースには行かなかった。もうこの日を逃しては、今年中の登頂は出来ないと、10月21日、快晴の日に実行した。
昨日は紅葉が素晴らしい月山、夫婦山そして南平山を登り、その後、会津田島の道の駅で車中泊した。早々に起きて、車を走らせ桧枝岐より舟岐林道を辿って、馬坂峠に到着。
前回は早朝に宇都宮を出発して時間的余裕が無かったのと、台倉高山への認識が甘く、さらには登山者の踏み跡や赤テープを見落とした結果、登頂を断念した。
今日は絶対に登る、との意欲が強く、時間的余裕があり、前回確認していた踏み跡もわかっていたので心強い限りだ。ザックの中を再確認して7時歩き始めた。
微かな踏み跡は獣道と間違う程であったが、所々に赤テープや赤布があって、これを確認しつつ辿って登り進んだ。尾根北側の樹林帯は1898mピークをトラバース気味に進んだ。前回同様に倒木にはスギヒラタケが目に付くが、これは帰りの楽しみとした。
最初のピーク、1898mはわずか30分で到達した。前回はここまで1時間を要したのが嘘の様であった。ここには草紅葉の小さな湿原が残っていた。しかし油断をしていると、ハリギリに膝をぶっつけ、これが何とも痛くて苦手だった。踏み跡は南に向かっていたのが、南西へ向きを変えて進んで行く。
ほとんど平坦な、尾根らしい形もない樹林帯をさらに進んで行く。先程の湿原よりもさらに大きな湿原(といっても20m程の細長い湿原である)が現れた。ここが2033mピークであろう。
踏み跡を確実に辿って行ったが、時々笹に隠され、見失いそうになる事もあった。さらに笹を掻き分け、樹林に入ってはか細い踏み跡を辿って進んだ。
でも赤布やテープも結構木に巻かれていたから、落ち着いて見回せば、これを捜すことはそんなに難しいことではなく、不安はなかったが、ただ熊除け鈴を家に置いて来てしまったから、この余りにも静か過ぎる樹林の中では寂しい思いがした。何せ私以外にはこの台倉高山へ歩いている人はいないだろうから。
さらに進むと再びピークに到達した。2028mピークだった。前方には台倉高山の一つ手前のピーク2060mが確認出来た。ここからでは二つのピークの先になっていた。そして目指す台倉高山はそのピークの南に位置していた。今日の台倉高山登頂を確信した。
ここからは三つ目のピークである。時間的には1時間ちょっとで到達出来そうな気がした。
自然に私の足の速度は速まって来た。
やがて到達した一つ手前のピーク2060mとの鞍部、ここには小さな湿原が現れた。前方には端正な三角錘のピークを持つ、台倉高山が姿を現した。前回断念した後、帝釈山頂で確認していた、その紛れも無い姿だった。ここからは2m以上の根曲がり竹が密生しているピークの南斜面をトラバースして藪の中を進んで行った。
この藪がとにかく滑り台の如く滑り、さらに足を取られる。今まで辿って来た台倉高山の道では最も歩き難いいやらしい地点だった。
ここを歩き切ると、目指す台倉高山のピーク真下の、鞍部に到達した。藪は小笹に変わり、踏み跡は北側の樹林の中を少し辿った後、笹を掻き分けて登って行った。
11時30分、憧れのピーク、台倉高山に到着した。
中央に三角点標石が笹から顔を出し、北側の木には、小さな山名板が下がっていた。秋の紅葉は終わりが近づいていたが、展望は抜群の素晴らしさだった。東の帝釈山から那須の山々や高原山、南に女峰山を目前にし、男体山や白根山。西に至仏山、燧ケ岳から会津駒ヶ岳と飽きる事がない。ザックよりカメラを取り出して、この素晴らしいパノラマを撮り続けた後、休憩とした。おにぎりとパンとジュースのコンビニ昼食ではあったが、この台倉高山の美味しい空気と素晴らしいパノラマがさらに美味しい味付けをしてくれた。
未だ山頂で展望を楽しみたい、との思いも強かったが、30分後山頂を下った。
帰路も藪の中のトラバースは苦労した。つい楽な方へと歩き進んで行ったらしく、10mも踏み跡から下方へそれていた。気が引き締まるトラバースだった。
尾根に続く踏み跡を、注意しつつ辿って行った。同じ踏み跡を辿り帰る訳だから、そんな不安はないはず、でも登りよりも下りの方がより神経を使った。
2028mと2033mとの鞍部で鈴の音を聞き、初めて単独行の中年男性と出会い、挨拶を交わした。この日、台倉高山へ登ったのは私とこの男性の二人だけだった。
再び1898mピークに戻った。後はキノコ採りに熱中した。倒木に白い花が咲いたが如く生えるスギヒラタケ。私はたちまちにして、ビニール袋二つも収穫出来た。我が家への土産はこれで充分だった。車に戻り、着替えを済ませた。さらに後の楽しみは温泉だった。
再度登ったのは2003年10月11日、紅葉の美しい時だった。以前一回歩いただけだったのに、歩行ペースがこんなにも違うのかと思える程、快調に歩き続け、登り約2時間半、下りは約2時間だった。それと言うのも、わずか2年の間に、この山を訪れる登山者が増加し、踏み跡もしっかりと着いて、木には赤テープやペンキの目印も増えていたからだった。山頂での大パノラマを満喫して馬坂峠に戻った。さらにもう一度、台倉高山の雄姿を見たくなった。東の帝釈山頂に立って、これをカメラに納めた。

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